「手紙の行方」
ある夏の日、私は一人、港の上に立っていた。
燦々と輝く太陽。
残り少ない命の中で使命を果たそうと鳴いているセミ。
自らを大きく主張する入道雲。
そして、どこまでも続く水平線。
人類が畏れた海が、光の反射で宝石のように輝いていた。
私は、紙切れを入れた瓶を持って果てを見つめていた。
瓶はしっかりとコルクで閉まっている。水が入ることは無いだろう。
私がしようとしていることは、ボトルメールである。
小説や映画などでは、ボトルメールは遭難した時に利用される印象が強いが、今の私は遭難した訳でもなく、助けを求めてすらもいない。寧ろ、希望に満ち溢れていた。
「一体、誰にこの手紙が届くのだろう」
考えるだけでも、得も言われぬ期待が湧き上がった。
その時、遠くから友の声がした。どうやら、そろそろ船が出るようだ。「直ぐに行く」と言い、友の後を追いかける。
船へ向かう中、私は未来を思った。
果たして、この手紙は誰に届くのか。
これがどうしても気になったのだ。
私が知る手立ては無いが、思うぐらいは自由だろう。
と、想像を膨らませた。
砂浜で、顔も歳も知らぬ少年が拾うか。はたまた漁師がこと瓶を見つけるか。もしかしたら、誰にも届かない?
考えては見たものの、正直言ってそんなことはどうだっていい。その瓶を投げることで、私の目的は果たされる。私はただ、生きた証を残したかった。
「届かなければ意味が無い」と皆は思うだろうが、
私はそうは思わない。例え、永遠に見つけられなかったとしても、そこに在り続ける。それだけで、私の不安は和らぐのだ。
船に乗る時がきた。別に特段重い決断をする訳でもないため、特に緊張はしていなかった。私がこれからすることと言えば、「瓶のいつまで続くか分からない旅」を見送ることのみ。
一生涯の別れとなるだろうと、私は瓶に語りかけた。
そして、瓶からの返事は、瓶を投げることで交わされる。瓶は大きく放物線を描きながら、水飛沫を上げ、大海原へ旅立った。
私は、彼の旅の無事を願い、未来を託した。
そして彼は、段々と波の光に包まれた。
何の後悔も無いかのように...
了
2/18/2025, 12:50:51 PM