「雨、止みませんね」
曇天からさらさらと降りしきる銀糸に流されそうな呟きが、淡桃の唇からぽつりと零れ落ちた。微かに震えるその音を聞き拾った少年は、数歩隣に佇む声の主を見やる。そこには、淡桃の唇を生真面目に引き結ぶ、秋の月に似た横顔が、凛と冴えた眼差しを白く煙る彼方へ向けていた。少年は隣人に柔らかく微笑み返す。
「大丈夫、止まない雨はないから」
春の陽射しのように暖かな言葉は、静かに澄む月に影を落とした。あら、僕は何か間違えたかしらと小首を傾げる少年の耳を、淋しげな囁きが掠めた。
「そうですね」
濡れた空には、薄く日が透け始めていた。
5/26/2024, 3:25:19 AM