作家志望の高校生

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「ん……なんかかかった……」
土曜日の何も無い昼下がり、暇を持て余した俺は海釣りに来ていた。
気長に釣り糸を垂らして、ウミネコの声を聞きながらゆったりと待つ。竿の先に付けた鈴が鳴れば、竿を確認してまた待つ。暇潰しにはもってこいだ。
それで、さっきから2本ほど竿を用意して糸を垂らしているのだが、うち1本がどうも様子がおかしい。いくらなんでも、かからなすぎる。仕方ないので餌を変えてみようと、ひとまず上げることにした。
しかし、いざ上げてみると竿先がしなる。つまり、何かはかかっている。それなのに、動いていなかったということだ。
根掛かりを疑いつつもリールを巻くと、一応きちんと上がってきた。だが、その先に下がっているのは魚影ではなさそうだ。水中のゴミがかかったのかと、掃除にもなるかと諦めて上げきった。
かかっていたのは、何かしらのお菓子の缶。クッキーかなにかのものだろう。その缶の表面にびっしり付着したフジツボに、針がかかったらしい。
「なんこれ……何入ってんの……」
興味本位で、フジツボを剥がして錆びた蓋を開けてみる。中は案の定浸水して水浸しだったが、落とし主は想定していたのか、中身は丁寧に袋に入れられていた。重りとして石が詰められているのを見ると、わざと沈められたもののようだが。
余計謎が深まった間に興味をより引かれ、特に何も考えず袋を開けた。中に入っていた紙の束を取り出して、パラパラと捲ってみる。
俺はしばらく硬直して動けなかった。紙の束の正体は写真だった。が、その被写体の顔に見覚えがありすぎる。遊び回る2人の男児。片方は俺、もう片方は、高校で分かれたっきり会っていない幼馴染。
瞬間、全てを思い出した。そうだ、これは2人で沈めたタイムカプセルだ。十年後、二十歳になったら2人で開けようと、確かにそう約束して。
俺達はもう23歳。約束の日はとうに過ぎている。俺がここまで完璧に忘れていたのだから、きっともう彼も覚えちゃいない。それでも、もし3年前のいつか、彼が一人でここに来て、俺を待って、そして寂しく帰ったのなら。それじゃ、あまりにも申し訳ない。
携帯を取り出して、数年前に止まったままのトークルームに文字を打ち込む。送信するときはさすがに少し躊躇ったが、勢いに任せて送った。

テーマ:時を繋ぐ糸

11/27/2025, 8:06:35 AM