「いらっしゃいませぇ」
時刻は、20:05を過ぎた頃。
私は、壁掛け時計下のレジ近くで
バラの手入れしていた。
いつの間にか枯れてしまっていた花や、
いつもより青々としていない元気が無くなった葉を
プチンップチンッと、丁寧に花切狭で切っていたら
カランコロンと、扉を開けて入ってきた事を
知らせるベルが鳴り、男の人同士のお客様が2人来店
1人は、スーツ姿の30代くらい?の
焦げ茶色の髪の色に右手には、買い物帰りであろうか?エコバッグを左手には、仕事用の鞄を持っていた。
もう1人は、明るい赤茶色の髪の毛にお洒落なカジュアル服姿の10代〜20代前半ぐらい?の男の人
身長は…ふたりとも大体同じぐらいの背だ。
「(…おや?こんな時間に男の人が2人…)」
私は、その2人を不思議そうに眺めつつ
右手に持っている鋏を動かしていた。
2人は、鮮やかな色とりどりの沢山の花に囲まれながら
あっちに行ったり、こっちに行ったり…2人仲良く
ウロウロと店内を見て回っていた。
15分ぐらい、たっただろうか?先程まで2人で
仲良く見て回っていたのだが…なんと
今度は、2人とも各々で見て回っていた。
スーツさんは、この店で1番日当たりが良い窓近くにある棚の中の観葉植物達を眺めていた。
「(観葉植物が好きなのかな…?)」
などと、勝手な想像をしながら私は、
切り終わった葉や花の後片付けをしていた。
これで元気になるね。心の中でこっそり呟いていたら
『…あの…。』
と、静かな声が聞こえてきて私はハッと我に返る。
「はっ…はい!」
私は、片付けを中断し声がした方に体を向ける。
そこには、赤茶色の髪のカジュアルさんがいた。
遠くじゃよく分からなかったが、近くで見ると
中々の美形さんでは無いか!
この人は、モデルさんか何か??などと
私は一瞬だけ思ってしまった。
しかし…私に声をかけてきた彼は、
口を開けたり閉じたりしているし、目がキョロキョロと忙しなく動いている。彼は、声をかけてきたが中々話そうとしなかった。
中々本題に入らないので私は、ついにしびれを切らし
「……何か…探している物でもあります…か?」
と、恐る恐る尋ねてみた。
彼は、目を見開き一瞬動きを止めたがすぐに
小さく頷いた。すると、少し顔を俯けながら
彼は小さな声で話し始めた。
『ぷ……プレゼントをしたいのです…
その…2人の記念日だから…。けれど…どんな花が
良いか分からなくて…それで…』
彼は、彼自身の髪の色にも負けないぐらいに
顔を紅くし、時折観葉植物を眺めているカレを
チラリと見て、話せないでいた理由を話してくれた。
「(なるほどね…。)」
私は、1人で納得していた。この2人の
関係性を知ってしまったからだ。
知ってしまったからには、私も
全力で応えようではないか!
「そうですね…。プレゼント用でしたら
……生花だと、すぐに枯れちゃうし
持っても3週間ぐらい。永く楽しめる物なら…
観葉植物?…うーん…でもなぁ…」
カレは、観葉植物を見ていたから
それをプレゼントするのは、何か違うカモ?
と、感じた瞬間。私はアレの存在を思い出した。
「(アレなら!2人とも、喜ぶかも知れない!!)
…お客様!ウチには、こういう物が!…」
✼✼✼✼✼✼
カランコロン…。
扉を開け、外に出ると辺りは車の通りが少なく
空気も夜空も秋の気配を感じていた。
肌で、秋の気配を感じつつ私と彼らは
和やかな空気が身体から出ていた。
『灯夜……ありがとう。花屋さんも…。』
スーツ姿のカレは照れくさそうに、アレを
まるで、壊れ物を持つかのように大事に胸の前で
右手で包んでいた。そこには、透明なケースの中に
色とりどりのバラの花が沢山敷き詰められた。
そう…私が提案したのは、ドライフラワー
2人が、これからも末永く居られるように
そして、今日という日が最高の日でありますように
と、願いも込めて提案をしてみたのだ。
……どうやら、成功したようだ。
2人は、幸せそうにドライフラワーを見つめていた。
それから2人は、三度
感謝の言葉を述べてから、人目を気にせず仲良く
手をつなぎ秋風と共に、この花屋を去っていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで、
私は2人を見つめていた。
「…さて。店閉めますか!」
私は、再び扉をカランコロンと
音を立てながら開け店内に入っていった。
花屋の名前は《きらめき》
明日も、誰かの心にキラキラとした出会いと
幸せな1日が訪れますように
9/4/2024, 2:42:24 PM