『手を繋いで』
⚠二次創作、(もしかしたら)BL、ifストーリー
少し肌寒い秋の夕暮れ。
昼間とはうってかわって静かになった海岸を、弟と並んで歩く。
日の沈みかけた砂浜に、波の打ち寄せる音が穏やかに響いていた。
この海は、かつて僕と弟が一緒に暮らしていたころに、両親と四人で来た場所だった。
その後すぐに僕と弟の征司郎は離れ離れになってしまい、ここに二人で来ることができたのはこれで二回目だった。
しかし征司郎は僕が海外へと渡った後もここへ来たことがあるらしく、懐かしいと話していた。
「昔さ、ここに二人で来たことあったよね。覚えてる?」
試しに問いかけてみると、弟は頷く。
僕は隣で歩く弟の横顔を見ながら、ここへ来た時のことを思い返していた。
あまり細かいことは覚えていないのだが、征司郎の手術が無事に終わり、ようやく二人で遊べるようになって喜んでいたのを覚えている。
その時僕と弟は、手を繋ぎながらどこまでも続く海岸に沿って走っていた。
遠くまで行き過ぎたせいで帰れなくなり、両親にこっぴどく叱られてしまった。
でも、握った手の感触と、風を切りながら進んでいく爽快感は今でも鮮明に思い出せる。
この世界に僕と征司郎二人だけになったような気がして、寂しいような嬉しいような気持ちになったことも。
僕は夕日に照らされた弟の横顔をちらりと見る。
「ねえ、あの頃と同じようにさ、手、繋いでみない?」
「は?」
弟は眉をしかめ、あからさまに嫌そうな顔をする。
まあ、兄弟とは言えどいい大人同士で手を繋ごうと言われて躊躇しない人間はいないだろう。
嫌だよ気色悪い、と弟はそっけなく答えた。
仕方ないので無視して弟の手を握る。
弟は迷惑そうな目でこちらを睨んだが、僕の手を握り返してくれた。
暖かくて、懐かしい感触だった。
12/10/2024, 7:48:30 AM