優しくしないで
こんな事、許されるわけない。
いつまでもこのままではいられない。
今日もまた、時間が来てしまった。
分かっている。
時間なのだ。そろそろ……。
それなのに、また誘惑に負けてしまいそうになる。
ふわりと優しく包みこまれていると、俺はいつのまにか目を閉じて、その身をゆだねてしまいそうになる。
寒いこんな朝は特にそうだ。そのぬくもりから離れたくない。それでも強い意志を持って、ぐっと身を伸ばして誘惑を克服しようと努力する。
しかし、俺を包むこの温かさは、まるで俺を引き戻そうとしているかのようだ。
いつまでもここにいてもいいよと、言っているかのようだ。
やめてくれ。
こんなに優しく包みこまれたら俺は。
俺はもう、ここから離れられなくなってしまう。
このままでいると、恐ろしいことが起こるとわかっている。
だからこそ俺は身を起こして、ベッドを出なければならない。
けれど最後の抵抗とばかり、俺はぎゅっと枕を抱きしめる。
いやだ、たとえ時間が来ても離れたくない。
俺は何度も時計を見ながら、往生際が悪いとわかっていても包み込むぬくもりにいつまでも身を任せていたいと願う。
俺はそのまま、目を閉じた。
*****
しつこくなり続ける三度目のスマホの音で目を覚ました俺はアラームを止め、時計を見た。
「やばっ! もうこんな時間だっ!!」
あわてて体温で温まっているベッドから起き上がる。
今から出勤しても、出社時刻には間に合わない。
俺は会社に遅刻する旨の連絡を入れてから、慌ただしく準備をして家を出た。
5/2/2024, 10:42:17 AM