きらびやかな世界からは程遠い
うらぶれた街の片隅
そこで育った少年はある日
キラキラと輝く小石をひとつ拾った
光る小石は今まで見たこともないくらい綺麗で
少年はすぐにその石が気に入ってしまった
家に持ち帰り空の瓶にしまい込む
まるで自分だけの
宝物を手に入れたような気がした
また別の日
少年は再びキラキラした小石を発見する
また別の日も
また別の日も
同じような輝きの石が
少年が目にする場所の所々に現れた
いつしか小石は透明な瓶をいっぱいに満たす
少年は満たされた瓶を眺めていると
空腹さえも忘れられた
幸せな気持ちにさえなった
そうしてふと少年はあることを思い付いた
少年は小脇に瓶を抱えると
まず母親の元へ行った
少年の母は朝から晩まで働いていて
少年が母親と過ごせるのは
いつも眠る前の少しの時間だけだった
少年は母親へ瓶の中の小石をひとつ渡した
母親は疑問に思う
これはいつも少年が大切そうにしていた小石だ
それを知っていたから
どうしてくれるのか分からなかったのだ
けれど少年は満面の笑みだった
少年は母親だけではなく
母と同じ場所で働く人達にも一つずつ手渡した
貰った人達はみな首を傾げたが
少年はただ嬉しそうに笑うだけだった
そして少年は
次々と人々に小石を渡しに行った
知り合いの老人
たまに字を教えてくれる青年
少年と同じ年くらいの女の子
みんな不思議に思いながらも
少年がくれた小石がとても綺麗だったからか
受け取った後は誰もがみんな笑顔になった
ある者はポケットに入れて持ち歩き
ある者は自分の家の窓辺に飾り
ある者達は互いに見せ合い笑い合う
暗かったはずの街の片隅に
小さな光が溢れ返った
少年は空の瓶を両手で持ったまま
周囲を見渡した
自分の生まれ育った場所が
大好きな人達が暮らす場所が
まるで星空に包まれているみたいに
優しい輝きに満ちている
少年の元にもう小石は一つもなかったけれど
少年の胸にはたくさんのあたたかなものが
溢れていた
【星が溢れる】
3/15/2023, 11:15:31 PM