水上

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私はあの子のことが嫌い。
だから、同じ楽器なんて選ぶつもりはなかった。

社会人になると、職場と家の往復が主になる。私の属した会社は色々と自由で、最低限のルールを守ってやるべきことをこなしていれば、あとは楽しくお喋りしたり、お茶を飲んだりと気ままに過ごすことが許されていた。
「楽器やらない?」
似た趣味の先輩と、同じゲームにはまって。その影響をもろに受けて二人で新たな趣味を開拓しよう、と盛り上がった。やるならどの楽器がいい?なんて話しているだけでも面白かったけど、二人とも変なところに行動力を発揮してしまい、それぞれ違う楽器を買った。本当に買った。諭吉が数人消えていったのは言うまでもない。
「似合うね」
先輩はそう言ってくれたけど、私は自分の選択に少し困惑していた。まさか自分があの子と同じ楽器を選ぶなんて。違う、あの子じゃない。これはゲームで推しキャラが演奏していた楽器。躍起になって胸の中で繰り返し言い訳する。だけど本当は、私の記憶の中であの子の奏でる旋律が、ずっと鮮明に残っている。


〉君の奏でる音楽

8/12/2022, 10:17:47 AM