イオリ

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街の明かり

 片翼に穴が空いている黒の悪魔が、上機嫌で街を浮遊している。その異形に似つかわしくない、やさしいメロディーを口ずさみながら。
 
 今日の歌は、堺正章の『街の灯り』らしい。

 
 街の灯りちらちら あれは何をささやく

 愛が一つめばえそうな 胸がはずむ時よ 


 お気に入りのフレーズに差し掛かったとき、1軒の家を指差す。すると灯っていた灯りがすっと消えた。

 また最初から歌い出し、別のところへ飛んでいく。

 歌いながら、懐からメモを取り出し確認する。

 ああ、あそこだな。

 また、ある家に近づく。例のフレーズになると同時に指を差し、灯りをすっと消した。

 この家も喧嘩ばっかり。愛がないなら灯りもいらんだろ。


 また別のところへ飛んでいく。

 最後はあそこだな。

 ひと際大きな家に近づく。例によってあのフレーズの時に指を差し、その豪邸のすべての灯りを消した。

 悪いことして金を稼ぐやつに愛はいらん。だから灯りはいらんだろ。

 ククッ、と満足気に笑う。

 ここには明日も明後日もくるからな。

 そう言って月の光を避けながら飛んでいき、闇に溶けて消え去った。

7/8/2024, 10:03:39 PM