Frieden

Open App

「明日世界が終わるなら……」

 私とあなたはずっと、この国に暮らす人々のために、この国のために、この星のために、そしてこの世界のために、魔法少女として戦ってきた。私が厄災の始末を、あなたは私の傷の回復を。それの繰り返し。ただひたすらに繰り返してきた。

 私は幸せだった。私が世界で一番愛しているあなたのそばにいられるから。大変だったね、なんていいながら、私の傷を癒してくれるあなたの優しい笑顔が見られたから。本当に、幸せだった。

 でも、あなたは私ではない人を選んだ。私にとってはいちクラスメイトに過ぎない、平凡な彼を選んだ。笑顔が素敵だからと、あなたは微笑みながら言った。

 厄災は世界のほとんどを呑み込んだ。今や箱庭で暮らす私たちだけが平和に暮らしている。あなたは魔法少女から、普通の女の子に戻ることを決めた。箱庭にももう厄災の手が伸びていて、あと持って数日という所まで来てしまったから。
 
 「最後くらいは、普通の女の子に戻りたいよね。」あなたは言った。あなたは世界を諦めた。私はあなたを愛しているから、その選択を尊重した。

 それじゃあ、私は?私はどうするの?あなたはもう魔法少女ではない。でも、私はまだ、私たちの暮らす箱庭を守らなければならない。

 「明日世界が終わるなら……」なんて、かつては冗談のような問いだったけれど、いまやもう、みんな世界を諦めた。今や世界は、絶望で、厄災を生むエネルギーで、満ち満ちている。みんな、美味しいご飯を食べたり、大切な人と話したり、あるいは抵抗してみたり。そんなこともしないみたいだね。

 あんなに美しかった世界。あなたの愛した世界は、もうじき厄災に呑まれて壊れる。

 私は?私はどうしたいの?私の世界にはもう、あなたはいない。あなたのいない世界は真っ暗で、冷たくて、終わりのない、そんな場所だ。

 それならいっそ、この手で全部。

 壊してしまおう。

 私は厄災だ。もう世界を守る魔法少女ではない。誰も私を見ない。なぜならもう私は黒い霧だから。綺麗な世界を、私という闇で包んで、守ってあげる。もうどこにも行けないよ、行かせないよ。

 そうだ。箱庭なんて壊してしまおう。あなただけを、優しくて暖かいあなただけを、守ってあげる。そうすればあなたは私だけを見てくれる。これで私たち、ふたりぼっちだね。

 どうせ世界は終わる。だったら私は厄災となって、あなたの気に入らないものを全部消してあげる。あなたのために、欲しいものは全部あげる。あなただけの幸せな箱庭を作ってあげる。

 だからどうか───私だけを見て。厄災となった完璧な私だけを見て。

 怖がらないで、もうすぐあなたも。

 私と一つになれるから。

5/6/2026, 4:37:24 PM