書く習慣:本日のお題「怖がり」
私はかなり怖がりである。
こういう言い方をすると、親切な人は「慎重な性格なんですね」とか「リスク管理ができている」などと素敵な解釈をしてくれるが、そうではない。
怖がりが発揮されるのはホラー映画である。まず、文字だけの原作を読んで内容を理解してからでないと、ホラー映画を観られない。映画で痛そうな場面やジャンプスケアが来ると画面を見られず、ストーリーがわからなくなるからだ。たいていの場合、結末は「除霊完了!すっきり!」などということはなく、「主人公は辛くも逃れられたけれど、怪異は今もそこにある」的な終わり方が多くて後味が悪い。それがホラー映画のいいところでもある。
映画を観た後は、内容を頭から振り払うためにいろいろな努力をする。楽しい本を読んだり、スマホでお気に入りの動画を観たり、おしゃれなカフェでポットの紅茶とケーキのセットを頼んでのんびりしたり。
しかし、どこからか視線を感じることがある。
ベンチで本を読んでいて、ふと目を上げた時。通路の反対側に佇んだ人が、じっとこちらを見つめている。
電車でイヤホンをつけて動画を観ていて、ふと「そろそろ降りる駅かな」と電光掲示板に目をやった時。ななめ前に立っている人が、無表情で私を見下ろしている。
カフェで紅茶のおかわりを注ごうとポットを持ち上げると、少し離れたテーブルの人が私に視線を注いでいた。
そんなにおかしな出で立ちをしていただろうか。今日の服は紺色のワントーンコーデ、ブラウスとレースのロングスカートだ。ちょっと変かもしれないけれど、他人様にじろじろ見られるほど奇抜な格好ではないはずだ。
もしかして、さっきホラー映画に出てきた怨霊が私の肩に憑いているのだろうか。
たちまち脳裏におどろおどろしい幽霊の姿がよみがえる。上映中に目を閉じるのが一瞬遅くて、ちょっと見えてしまっていたのだ。
まずいことに、その日は「この話を知った人のところにも……」系の作品を観てしまった。
今まで観てきた数々の怪異が自分に集まってくる想像が止まらなくなる。怪異が怪異を呼んで怨霊デパートになるやつだ。
今までに観てきたいろいろなホラー映画の主役が頭の中を駆け抜けていく。井戸をよじ登ってテレビから出てくる彼女、奇妙な声をあげながら襲いかかってくる白い彼女、着信音とともに登場する彼女、13日の金曜日の彼、ホテルの管理人をやっていた彼、雨の日の排水溝に潜んでいた彼、炭鉱夫、話題にするとやってくる赤い女、etc.
自分の背後に、白や赤や黒の衣装をまとった怪異が佇んでいるのかもしれないと思うと、背すじがぞくりと粟立ってしまう。
敢えて平然とカップへ紅茶を注ぎ、なるべくおしとやかな所作でポットをテーブルに戻し、気を紛らわそうとスマホを手に取る。
熱い。
慌てて画面を見ると、いつからかわからないほどずっとライトが点いていた。
そうか、みんなこれを見ていたのか。
気づけば充電も残り少なくなっている。ライトがつけっぱなしだったから減りが早かった。
モバイルバッテリーを出そうと鞄に目を向けると、チャックが全開になった鞄からおどろおどろしい映画パンフレットの表紙がこんにちはしていた。ぱっと見、鞄から怨霊の顔が覗いている絵面だ。
そうか、みんなこれを見ていたのか。
スマホライトつけっぱなしで恥をかきつつ、バッグから怨霊の顔面を晒して歩いていた私こそ、この場で一番の怪異だった。
3/16/2026, 3:40:41 PM