【夏】
夏といえば? 海、祭り、花火……。
色々なものが浮かび上がると思う。どれも夏には欠かせない行事だ。ただ、楽しいものの反面、嫌なことも思い浮かぶ。
海なら沖まで流されたり、祭りなら暗がりと人並みに紛れた犯行、花火なら火花などが危険なのではないだろうか。いきなりだが、私の友人は祭りの帰りに子供を庇って亡くなった。
ニュースでも取り上げられたし、子供の親もお礼と謝罪を何度もしていた。だけど友人の親はそんなのどうでもいいと、なにも受け取らなかった。そんなことで娘が戻ってくるわけじゃないんだから、と。
祭りは学校帰りに一緒に行ったため、お互いに制服姿だった。バッグにお揃いのキーホルダーをつけて、まさにJKを堪能していたと思う。
1時間ほど歩き回っていると、途中でお互いのキーホルダーのチェーンが切れた。慌てて拾い、とりあえずポケット入れ、友人と「なんか不吉だね」と冗談混じりに笑っていた。
「たのしー! 明日、土曜日だし最高すぎん!?」
ほかよりも大きい声で喋る友人に、そこそこの注目が浴びる。恥ずかしくてお口チャックのジェスチャーをすると、ケラケラ笑ってボリュームを下げてくれた。
そろそろ帰るか、と道を歩き始めた時、1人の少年が横を駆け抜けて行った。「元気だねー」とお互いに笑いあっていると、目の前が踏切であること、踏切が降り始めているのに止まらない少年に気づいた。他の人が声を出して注意しているのにも関わらず、少年は走り続けていた。
友人はバッグを私に投げ渡し、走り出した。陸上部の彼女はあっという間に少年に追いつき、背中を押して踏切の外まで飛ばした。少年は勢いよく転んで大泣きをしていたが、私はそんなのどうでもよかった。
友人の名前を叫び走り出すが、それは届かない。彼女は状況を把握できないまま電車に轢かれた。
辺りには血が飛び、肉片が飛んだ。一拍置いたあとの悲鳴で、周りが騒がしくなる。しかし、私の耳にそんな喧騒は入らなかった。踏切の前で崩れ落ち、涙も出ないほど放心していた。耳鳴りが酷く、視界は真っ白になっていた。
その後は事情聴取をされたが、何を話したかはまるで覚えていない。どうやって家に帰ったかも、記憶から抜け落ちていた。
ただ、友人が死んだ実感が湧かず、預けられたバッグをずっと抱きしめていた。
「あのクソガキがいなければ……」
今更どうしようもない事実を受け入れられず、ただひたすら人のせいにするしかできなかった。
やがて時は過ぎ、季節は何周もした。去年よりも暑くなった夏に、みんなが殺意を湧いていた。しかし、毎年恒例の夏祭りは変わらず開催される。
祭りの喧騒から離れた例の踏切は、人が亡くなったからと、今は封鎖されている。だが、電車は変わらずやってくるし、何ら変わりない光景だ。
夏に踏切の前に立つと、あの光景がフラッシュバックされて吐き気に襲われる。それでも私はこの場所にやってくるし、ここに彼女を思い出す。
未練がましく彼女に取り憑いているのは私の方なのかもしれない。
7/14/2025, 12:55:32 PM