H₂O

Open App

同情


大きなホールのど真ん中で、その女性は婚約破棄を告げられていた。身に覚えのない罪を挙げられ、思わず、違う、と叫んでも婚約者であるその男は聞く耳も持たなかった。
被害者面をした少女は、男に肩を抱かれながら、いかに女性が酷いことをしてきたのかを告白した。
本来ならその女性がいるはずの場所である男の隣を奪い、はらはらと涙を流す。守ってあげたくなるような、庇護欲を掻き立てるその表情は同情を誘う。
そして、その顔を覆い隠すようにした手の下で、少女はニヤリと笑っていた。
「ああ、泣かないでくれ! かわいそうに、もう大丈夫だから。安心して」
そう慰める男に女性はただただ呆れた顔をしていた。よくも騙したな、なんて怒号も聞こえてきたが、騙されているのは一体どちらなのだろう。
ああ、きっと女性が本当のことを訴えても、涙を流しても、同情なんてかえやしない。だって、そうやって世界に望まれたのだ。彼らがハッピーエンドになるために、彼女は犠牲にならなければいけない。
可哀想に、なんて興味も関心もないのにそんな言葉が出てくる。あーあ、神様よ。君が作りたかったのはこんな世界なのかい?

2/20/2023, 2:09:53 PM