明永 弓月

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 いつしか、私の人生となるもの。私の軌跡。
 胸を張れるようなものではないかもしれない。
 最後の頁に、幸せだった、と認めたい。

 最初にそう書かれたしっかりとしたノート。何らかの書籍だと思い手に取ったが、どうやら誰かの日記らしい。読むわけにもいくまい、と思いつつも、書庫にあるのだから読んでもいいのではないか、と心が揺れている。見知らぬ人の人生を覗き見てみたい。
 誘惑に負け、更に頁を捲っていく。見知らぬ誰かの日々が描かれている。その日印象的だったできごとが克明に、そしてそのときの感情が鮮明に。
 読み返したときに辛くなりたくない、と最初の方に書かれていたが、人との別れについて書かれてもいた。怒りを覚えたできごとも書かれている。書いているうちに、悲しいことも記そうと考えたのかもしれない。

 唐突に、白紙の頁が続く。その後はいくら捲っても何も書かれていなかった。
 そこで書くのをやめたのだろうか。やめざるを得ないできごとがあったのか。

 この人は、幸せだったのだろうか。


 その後、その人に倣って日々のことを認め始めた。とはいえ、毎日ではない。印象に残るできごとがあった日、そのときの気持ちをまた思い出したい。そんなときに。だから、日付は飛び飛びだ。それも自分という気がしてならない。そんな自分を受け入れられるのも、あの見知らぬ人の日記によるのかもしれない。あの日記も毎日ではなかったのだ。
 私の人生、私の軌跡。幸せだった、で締めくくりたい。
 あの人に出会わせてくれた日記帳に感謝を。
 私の日記帳は、その隣に置いておこう。もしかすると、誰かが何かを勝手に感じるかもしれない。

8/26/2024, 11:31:59 PM