猪熊狐狗狸

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叔父はミニマリストだ。
生活雑貨は最小限のものしか持たず、インテリアも寝具類と限られたものしか置いていない。
だがどれもセンスがいい。
仕事もできるし、会話もユーモラスで、服も上質で洗練されて見える。
蓄えた顎髭は小粋に整えられ、清潔感もあるちょいワル風のイケオジ。
さぞかしモテるだろうと思うのだが、人間関係もさっぱりしたもので浮ついた話もついぞ聞かない。
成人したおり、叔父宅で酒盃を交わす機会があったので聞いてみた。
「叔父さん、もういい歳なのに結婚はしないの?」
叔父はふ、と笑う。
「ま、許されるもんならな。俺は身綺麗にしなきゃならない理由がある。俺の昔話を聞いたことは?」
頷く。
「随分とやんちゃをしたもんさ。
だがある時捨てられない、捨てても捨てきれないものを手にしてな…。」
叔父はクローゼットから何やら取り出した。
感慨深げに撫で、そっと机に置かれたのは桐の箱。
思わず神妙になる自分の前で開かれた箱中に、
「学生時代、廃神社でイキってな?」
伸びた髪を綺麗に結えた市松人形があった。


テーマ:いつまでも捨てられないもの

8/17/2024, 12:05:33 PM