「去年は『狐の子供が宝箱持って、駄菓子屋とか和菓子屋とかまわってお気に入りのものを買って、宝箱の中身をカラフルに染めた』ってハナシを書いた」
なんか「白って200色あんねん」の「200色」はカラフルと言い得るか、みたいなことも悶々考えてた記憶もあるわな。
某所在住物書きは色のついたマーブルチョコレートをパリパリ噛み砕きながら、アプリの通知文としばし、にらめっこを続けていた。
たしか先月「無色の世界」なるお題があった。
そこからの「カラフル」だという。
無色と有色でペアになる物語でも書ければエモいのだろうが、残念、物書きが先月手を出したのは「無色(むしき)」、仏教用語の方であった。
「カラフルねぇ」
物書きは毎度恒例に、途方に暮れ、窓の外を見た。
「……意外と車の色って、皆似たりよったり」
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室、午後。
部屋の主を藤森というが、その藤森の後輩と、藤森の友人の付烏月――ツウキが、
陽光さし込む少し温暖な室内で、数種類の冷茶をチビチビ。8K対応テレビモニタを時折観ている。
ガーネットのアールグレイ、琥珀の台湾烏龍、トパーズの川根に翡翠の八女。レモンを絞ればバタフライピーはサファイアからアメジストへ。
卓上は色にあふれ、それら茶の宝石にふさわしく、菓子にはパステルカラーのマカロンが控えている。
「……うん」
モニタを観ていた後輩が、確信をもって頷いた。
「カラフルではないけど、キレイ」
無論、茶と茶菓子に関しての評価ではない。
――時刻はその日の正午までさかのぼる。
午前中で仕事を終えた後輩は、同僚の付烏月と共に店内の掃除とセキュリティー点検を済ませて退勤した。
ブラックに限りなく近いグレー企業ながら、祝日はキッチリ休業日。明日から、待望の4連休である。
『今日、久しぶりにモンカス来たじゃん』
その4連休直前に、後輩は「彼等の店のサービスにご満足頂けていない客」と遭遇した。
来客用に出したアップルティーにケチを付けられたのだ。しかもバチクソどうでもいい理由で。
『アップルティー出したのと、「リンゴの花は白ばっかりでカラフルじゃない」のと、「多様性を認めてない」のって、なんか、関係ある?』
『しらな〜い』
せっかくの「連休の前日」が台無し。
そこで付烏月は一計を案じ、後輩の先輩であるところの藤森にスマホで連絡。
『とりあえず、藤森のアパートで飲み直す?』
お茶好きにして花好きである、雪国出身の藤森に、
「カラフル」な茶と
「カラフル」なリンゴの花の画像の準備を求めた。
某和菓子屋の和色でパステルなホイップマカロンを手土産に、後輩と付烏月が藤森の部屋に到着すると、
モニタには、一斉に咲いた赤と白の林檎花の海、
卓上には耐熱ガラスの1〜2杯用ティーポットに入れられた複数色のアイスティー。
『まぁ、確かに、リンゴの花はカラフルではない』
モニタはスマホとリンクしているのだろう。手元の板をスワイプして、藤森が言った。
『カラフルではないが、多分、キレイだと思うよ』
で、物語は冒頭の数行へと繋がるワケである。
――「真っ白とか、少しピンクとか、模様みたいに赤が混じってるとか。ヒトコトに『リンゴの花』って言っても、色々あるんだね」
形も違うし。大きさも違うし。スワイプスワイプ。
レモンを絞ったバタフライピーで喉を湿らせて、後輩が藤森に言葉を投げた。
「もっと濃い、『赤い花』のリンゴもあるそうだ」
今回はちょっと、用意できなかったが。
言葉を返す藤森は付烏月が台湾烏龍をガブ飲みしているのをチラリ横目に、ため息。
新しく茶葉と湯を用意している。
「白、赤、ピンク、薄桃。まぁまぁ。そのクレーマーが言うところの『カラフルじゃない』は……一応。
で、付烏月さん、気に入ったのかそのお茶」
「ふぇ?」
「さっきから烏龍ばかり」
「なんか、あんこホイップマカロンと合う」
「あんこには、日本茶では?八女や川根は」
「うーうん。烏龍」
あーだこーだ、云々カンヌン。
藤森と付烏月が柔らかく穏やかな議論を重ねている間に、後輩は黙々と花の画像をバックにバタフライピーやらマカロンやらの写真を撮ってはゴクゴクぱくり。
ほぼ一人勝ちも同然である。
「カラフルとキレイって、必ずしもイコール、ってワケじゃないんだね」
後輩が言った。
「……甘味だけでなく塩味も食べたくなってきた」
今の彼女には味の多色性が求められているらしい。
5/2/2024, 3:59:20 AM