駄作製造機

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【意味がないこと】

ヒュウゥ、、

風が吹く屋上。俺はシューズを脱いで柵を越えた。
授業中に1人の男子生徒が手紙を持って屋上にいるとすれば、やることは1つしかないだろう。

『、、、』

顔を下に向け、運動場の地面を見下す。

『俺が死んで、後悔すればいい。』

親も、いじめっ子も、みんなみんな後悔すればいい。
ふと、視界の端にコロコロとボールが転がる。

顔を上げて隣を見れば、転がってきたボールを拾ったヤツとパチリと目が合う。

『、、、お前誰?』
『、、、、、今日数学でさ、太郎さんは5階の屋上からボールを垂直に落としました。ボールが405cm落ちるには、何秒かかるか。っていう問題したんだよね。』

2人の間に沈黙が走る。

『、、だから何だ?』
『文章題を実演してるんだ。』

俺はその場にずっこけそうになった。
数学の文章題は不可能だと思うものが多いが、それを実演しようとする奴は初めてだ。

『、、、それ意味がないことだよ。』

諭すように言うが、

『そうかもね。でも、僕は納得するまで突き詰める派だから。』

俺はソイツの言い分に呆れた。
そんなことをする暇があれば、勉強した方がマシじゃないのか?

『それで?君は何で此処にいんの?』
『、、見てわかんないか?』

そいつは少し考え、神妙な面持ちで口を開いた。

『わからない。』
『わからねえのかよ!!』

ついツッコミをしてしまい、慌てて口を閉ざす。

『ワハハハハッ!面白いね!』

そいつを見てたら謎におかしく見えてきて、俺もそいつも笑い合った。

もう、飛び降りようだなんて考えは薄くなっていた。

授業をサボって談笑をし、その後仕方なく教室に戻ると、後ろから突き飛ばされる。

『おいばい菌が此処に入んなよ。』

辺りから笑い声が聞こえる。

『、、、、』

俺は俯いて席に座る。
落書き。ゴミ。牛乳。

恒例の嫌がらせ。

『ギャハハ、ばい菌はゴミが好きだからいっぱい詰めておいたよ。』

ゲスな笑い声を上げ周りが湧く。

この教室に、俺の味方と呼べる奴はいなかった。

『おーい!三瀬〜!』

不意に苗字を呼ばれて顔を上げる。
そこには、屋上で会ったアイツがいた。

ニコニコと笑顔で手を振っている。

『何してんだよ、早く来いよー』

他クラスなはずなのにズカズカ教室に入ってきて俺の手を掴んで引っ張って行く。

『ハッ、変人とばい菌が仲良くなってる。お似合いじゃね?』

後ろから背中に張り付く悪口を、そいつが笑って払ってくれる。
俺にはメシアのように見えた。

ーーーー
『何で俺を、、?』

また屋上に戻ってきて、手すりに体を預けながら問う。

『んー?何でだろな。』
『俺と仲良くしても、ばい菌の仲間というレッテルを貼られるだけだ。意味がない。』

ソイツは少し考え、言った。

『意味がないことでも、お前は救われてるだろ?』

俺はその言葉にグゥの根も出なかった。
本当にその通りだったからだ。

ソイツはまたボールを持ちながら下を見下ろす。

『お前に意味がなくても、僕には意味がある。この実演も、お前を連れ出したことも。』

曇天の空はいつの間にか快晴になっており、鬱陶しいくらいの太陽が俺達を照らす。

『お前の名前は?』
『三瀬、菜津。、、、お前は?』
『滝田弓弦。よろしく菜津!』

太陽のように笑うソイツは、やがて俺の親友となるヤツだが、これはまた別の話。

11/8/2023, 10:50:25 AM