日夜子

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 親友だと思ってたのに。
 
 一週間前、塾の帰りに偶然真帆と会った。正確には真帆とその彼氏。多分、彼氏。知らない人だけど手を繋いで歩いていたから。
 私は知らない。真帆に彼氏ができたことなんか。夏休みで毎日は会わないからって、言ってくれてもいいよね? 電話だってLINEでだっていいんだから。
 私を見た真帆は「あっ!」と焦った顔をして、それから私に近づいてくる。でも私は顔を背けて来た道を駆け戻った。

 しばらくしてピコンとLINEの通知音が鳴る。通知欄にポップアップされたトークは『ごめんね――』から始まっていたが、全文は分からない。
 私は知らない。知りたくもない。偶然会わなかったら教える気もなかったくせに!
 そのあとも何度か送ってきていたけれど、今日まで真帆からのLINEは開いていない。開くものかと意地になっていたのもあった。でも昨夜からは少し迷い始めている。だって今日から二学期が始まるから。クラスメイトなんだから嫌でも顔を合わせる。他のクラスメイトだって私たちの様子を見たら、どうしたらいいのか困るだろう。もしかして先に彼氏のできた真帆を羨んでると思われるんじゃない? それはほんっとに嫌! 私はただ親友だと思ってなんでも悩みを打ち明けてきた真帆が、なんにも言ってくれなかったことが悲しかっただけ。
 ……どうして? 真帆。
 私は知りたかったよ。どうやって彼と知り合ったのか。どちらから告白したのか。初デートは何を着ていったらいいかな? なんて相談されたかったよ。

 学校へ向かう電車に揺られながら、心もゆらゆらと揺れる。スマホを握りしめて、LINE画面を開いてトーク一覧を眺める。
 開く? ブロックする? それともこのまま?
 電車を降りたら学校まで歩いてすぐ。自転車通学の真帆とは教室で顔を合わせるだろう。だから開くなら電車に乗ってる今が最後のチャンス。

 結局、真帆からのトークをタップすることはできずに電車を降りた。
 ……ああ、でもやっぱり……。
 改札を出てすぐに足を止める。もう一度スマホ画面を点灯させた。LINEのアイコンをタップしようした時、ちょうど通知音が鳴る。真帆からのトークだ。
『改札出たとこで待ってるね』
「――!?」
 顔を上げると視界に過ぎったのは真帆の姿。スマホを握りしめて、泣きそうな顔で私を見ていた。
「……真帆」
 私と目が合うとゆっくりこちらへ近づいてくる。目は赤くて瞼も少し腫れていた。涙をいっぱい溜めた瞳を揺らして、なんて言おうか迷ってるみたいに口を開いては閉じている。
 自信なさげに足取りは重い。とうとう頬に涙が零れて、真帆は立ち止まってしまった。

 私は真帆に向かって駆け出した。震えそうになる声を誤魔化すために、大きな声で言う。
 
「真帆〜久しぶり! 元気だったー?」
 私のほうこそごめん。開けなかったLINEの返事はこれから直接伝えさせてね。



 #19 『開けないLINE』 2024/9/2

9/2/2024, 2:52:21 AM