考えてる人

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『何だよ、飾りやがって』
そう、胸の内で1人、毒づきながら、元太は帰り道を急いでいた。
クリスマスが近いため、大通りはイルミネーションで着飾っている。
カップルたちが手を繋ぎながら、歩くには最適な環境だろう。
大学受験に失敗し、一浪中で彼女もいない、荒川元太には無縁の世界だが。
予備校から地下鉄に行くには、この通りを通らねばならないのだ。
少し回り道することもできるが、なんだか負けた気がして、この通りを足早に過ぎ去ることにしている。

「あれ?荒川くん?」
ふと、声をかけられ足をとめる。
「やっぱり、荒川くんだ。久しぶり、覚えてる?同じクラスの越川だけど」
声の主を見て驚く。
忘れるわけがない。
同じクラスで、ずっと気になっていた越川舞がそこにいた。
「あ、ああ、久しぶり、もちろん覚えてるよ」
他愛のない、近況を話し、その後、彼女とは別れた。

「またね」
最後に、舞がそう言った。
連絡先も交換してないし、社交辞令だろう。
でも、同じクラスにいたときは、一度も話したことがなかった彼女と、あんなに長く(実際は10分か15分くらいだけど・・)話せたことは、奇跡のようだった。
なんだか、さっきまでは鬱陶しかったイルミネーションが、元太の道を照らす光に感じた。

12/14/2024, 6:32:57 PM