右隣に大きなぬいぐるみがある。ふわふわだけど短いファーに覆われていて、抱きつくと買ったときから変わらないお店の匂いがするのかしら。鼻を埋めながら次は力一杯ぎゅっと両腕を絞める。詰まった綿の反発が可愛らしい。
私たちの主人はこれが味わえないんだから、人間というのももったいなくて考えものである。
ここには素敵なものがいっぱい。硬い椅子、硬いテーブル、硬い水面のティーカップ。ぬいぐるみと私の豊かな髪以外は何もかもが硬くてチープでサイズが揃ってなくって、でも素敵なものばかり!
あとは私たちの主人がもう一度天井を開けてくれたら。それで遊んでくれたら人形冥利に尽きるんだけど、と。数年閉ざされたドールハウスでため息をつくポーズをとった。
透明とは呼べない窓からはあの子の姿も見えない。ここは安くて軽くて、しかしとっても素敵な狭い部屋。なのに主人はとってもとっても飽き性なの。
本当に、もったいないわ。
6/4/2023, 10:18:59 AM