ゆずし

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「1000年先もずっと一緒にいようね」

そう誓い合ったのはちょうど一年前。最愛の妻の病状は更に悪化し、抵抗虚しく静かに息を引き取った。お気に入りのレストランに行った時も、天文台へ星を見に行った時も、妻は「これで最後ね」とよく悲しげに口にしたものだ。

妻は分かっていたのだ。己を蝕む病が徐々にその儚い生命の灯火をかき消そうとしている事に。なら、何故あの時「1000年先も」と口にしたのだ。1000年どころか、たった1年しか時間が無いと分かっていただろうに。

やるせない思いを胸に、重い足取りで病院の廊下を歩く。

「貴方宛にお手紙を授かっています。もしもの時は、彼に渡してくれと───」

看護師の方から受け取った紙は涙の跡に濡れていた。震える手でくしゃくしゃに折れた手紙を開く。

『1年先も、10年先も、100年先も、1000年先も私はずっと貴方と居たい。1000年かかってもいい。生まれ変わったその時に、また私は貴方に逢いに行く。だから"これで最後"なんて思わないで、貴方は次に進みなさい。今の人生を幸せに生きてね。PS 子供を産めなくてごめんなさい』

嗚呼、俺はなんて馬鹿なのだろう。"これで最後"と思っていたのは俺の方だったなんて。1000年もの間、君が追いかけ続けてくれるなら、俺は自信を持って先に進めるよ。

ただ、今は……今だけは。感傷に浸らせてくれないか。


暗くなった病院の窓から青白い月光が差し込んだ。額から流れる一条の光と共に、ただ静かに慟哭した。

2/3/2023, 10:51:01 AM