:霧の庭にて
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まだ夜と朝の境がほどけきらぬころ、
若い旅人・蓮(れん)は古びた寺の門をくぐった。
世界の重さに押し潰されるような心を抱え、
ただ静けさを求めて歩き続けてきたのだった。
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欲の園
境内を進むと、黄金の果実が輝く庭に出た。
香りは甘く、触れれば幸福がすぐにでも
掌に落ちてくるようだった。
だが果実をつかもうとした瞬間、
実は砂のように崩れ、風に散った。
「満たそうとすれば、ますます渇く。」
声なき声が蓮の胸に響いた。
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怒りの炎
次に辿り着いたのは赤い火の回廊。
憎しみの炎が天井まで踊り、
かつて自分を傷つけた人の顔が
次々に火の中から現れた。
蓮は叫び返したくなったが、
一歩立ち止まり、深く息を吸った。
すると炎はしずかに、
灯りのような小さな光へと変わった。
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無知の霧
最後に広がっていたのは濃い霧の庭。
一歩先も見えず、方向もわからない。
蓮は不安に胸を締め付けられたが、
足元だけを感じながら歩みを続けた。
やがて霧は薄れ、
朝日がゆっくりと庭を染めていった。
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目覚め
蓮は自らの心に気づいた。
欲に追われ、怒りに燃え、
無知に迷いながらも、
ただ見つめ、ただ歩くことで
すべてが移ろい、消えていく。
石畳の上に座り、静かに息を整える。
朝の光が蓮の肩に落ち、
その瞳は澄みきっていた。
学び続ける限り、罪はもう力を持たない。
そして蓮は新しい一歩を踏み出した。
9/12/2025, 1:18:10 PM