四季が風に乗ってこの街を七度巡るあいだ、私は静かに自問し続けた。捗々しい答えは見つからず、ついに我々は通い慣れた学び舎の門を背にし、互いの新世界が待つそれぞれの方角へと飛び立った。
私に君の友たる資格はあるか。
読んでみなよと君が投げて寄越したスタンダールの表紙は真新しい光沢を放っていて、この一冊は私のために用意されたのだと分かった。君はきっと、そう君もきっと、一人静かに考え続けていたのだろう。
貴方に僕の友たる資格はあるか。
いつ叶うのか判然しない幽かな希望を自らの陰に仕舞いこんだまま、遠慮がちな若者二人は等しい温度で敬慕しあい、しかし、その温かさが届かない位置まで同じ距離感でもって遠ざかりあっていたのだ。
友達になりたいと思ってなれるものならば。
もう二度と会えないところから、これほどの距離と時間と思いを隔てて今なお、私が君を忘れることなく在るように、君も私への思いを失っていないし、互いにそう確信していることさえ、また互いに理解している。
我々の友愛は実に、信頼に足る強さだったのだよ。
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「友達」
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所感:
スタンダールはいつ読んでも有意義ですができるなら十代のうちに手に取って、私と同じように人生観捻じ曲げる若者が増えればいいと思います。
所感の所感:
上の文だけ読むとひどい作家なのかと勘違いされるかもしれんと思い至りました。真っ直ぐ読む人も、斜に読む人も、読んだつもりの人も、読んだフリの人も。本の感想は読者の数と同じだけありますよ。
(2022/10/30追記)
10/26/2022, 11:51:59 AM