『哀愁を誘う』
人型兵器の工場で検品に弾かれると兵器の機能を外されて芥溜に放られる。なりそこないにもいろいろあるので立って歩けるものは野良になって人の世に混じるし、そうでないものは意識を自ら閉じて朽ちるのを待つばかりだ。私は立って歩けたし、優しい人にも巡り会えたので世話になりながらも自分で金を稼いで食っていけている。
食堂で素朴なパンと野菜の煮込みを食べていると、工場で配給されていたレーションのことをふと思い出した。活動に必要な栄養の入った半固体のそれは、無味無臭で不味くもないし美味くもないもの。今食べているものからは小麦の香りがするし根菜の噛み応え、甘み、あたたかさを感じられるので、どちらが美味しいかと聞かれれば断然こちらなのだが、不味くもなく美味くもないあれを口に入れたいという気持ちが今はなぜか湧き起こっていた。
同じロットで造られた兄弟たちの間にはまれに同調という現象が起こるらしいのだが、もしかしてそれが今なのだろうか。今ごろどこで何をしているか知る手立てもない兄弟の誰かが記憶を辿り工場のことを強く思い出している。それの意味するところは人で言う走馬灯のようなものなのだろうか。兵器としてしか生きていない者が最期に食べたいと思うものがもう戻ることはない工場の、食べ物とも呼べないあれなのかと、私は無性に悲しくなった。
世の中には美味いものが山ほどあるぞと念じながら野菜の煮込みにパンを浸して食べる。人のように涙は出やしないが、私はひとり泣きながら目の前のものを食べ進めていった。
11/5/2024, 4:07:37 AM