#47 好き嫌い
何を好むか、厭うか。嗜好は個人差が激しい。
好きか嫌いか、心で思うだけなら自由だから。
…、すき、きらい、すき、きらい、すき、きら…」
無心で花びらを毟っていたら、次が最後の一枚であることに気づき、手が止まった。
どうしよう。
いつもなら全然信じないくせに。
なんだか今日はモヤモヤしてくる。
「こんなの見られたら呆れられるんだろうなぁ…」
花の茎を握る手に力が入った。
「どうしたんだ?」
「えっ」
急いで振り返ると、不思議そうな彼。つい、と目線が動いた。私の手元の方に。
「え、あの、これは、その」
彼と手元の花と、キョロキョロワタワタしつつも何か言おうとするが、何も言葉が出てこない。
「花占いか?珍しいな」
「これは、た、ただ時間を持て余したというか、たかだか花びらが奇数か偶然か、それだけなのに、花占いなんて…」
動揺しまくっている私を見て、よっぽど面白かったのか、彼は小さく笑いをこぼした。
「そうだな。花びらが奇数か偶数か、それで相手の気持ちを決めつけるのは如何なものかと、僕も思うよ」
やっぱり、そう言うよね。
くだらないことのために花を摘んでしまった罪悪感も相まって、胸が苦いもので占められていく。
「だけどな」
彼は、花芯に花びら一つ残っただけの残念な花を、そっと私の手から抜き取った。
「相手の気持ちが見えないからこそ、花占いに想いを託すものなんだろう?君が、僕のためにそれをするのは、いじらしいと思ったよ。これは僕の自惚れかな?」
まだ上手く言葉が、-今度は別の意味で-出てこなくて、ブンブン首を振って答えた。
「良かった。これで違ってたら僕の大恥だった」
そう言って微笑んだ彼は、私の手を取り歩き始めた。
「さあ、待たせたね。帰ろう」
さっきのは私のために言ってくれたんだ、自惚れでなければ。
横を歩く彼の耳は少し赤くなっていた。
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そんなことを、同じ場所に立ったら思い出した。
「お待たせ」
「ねえ、」
「ん?」
「ここで、花占いしてたときの花って、あの後どうしたの?」
「ああー…実は押し花にしたよ。君の花占いしてるときの顔が可愛いと思ったから」
「えっ!見てたの!?」
色気もなく、がばっと振り返って彼を凝視した。
彼は、微妙に顔を逸らしつつ話している。
「ああ。君が余計に恥ずかしがりそうだから言わなかった」
「それは、そうだけど…花は…」
「花は取られたくないから、見せない。でも内緒にし続けるのも悪いかと思って言ったんだ」
「あ、そうですか…」
それなら、言わないで欲しかったような。
でも、これが彼の誠意で好意の表れなんだろう。
「んー…まぁ、わかった。じゃ、かえろ」
あの時とは逆に、私の方から手を差し出した。
(#36と同じ人物)
6/13/2023, 12:23:23 AM