「今日の放課後デートしない?」
目と耳と頭を疑った。すぐに自分の後ろを確認するがそこには誰もいなかった。
「ちょっと。人の話聞いてる?」
「え、あ、うん」
どうやら、聞き間違いでも人違いでもないらしい。彼女は僕に話しかけている。その綺麗な両眼の中に阿呆面よろしい僕が映っている。これは夢なんかじゃないんだ。僕と。この子が。デート。in放課後。あれ、この場合はofか?atだったか?英語はあまり得意じゃないから自信がないや。
って。
そうじゃなくて。
「あのさ、……本気なの?嘘じゃなくて?」
「何が?」
「その、放課後にデートしようって話」
「だからそうだって言ってんじゃん」
あんた耳ついてんの、って、いつもの毒舌を僕に浴びせてくる。良かった、いつもの彼女だ。やっぱりこれは夢ではない。
「じゃ、そゆことだから。放課後昇降口で待ってて」
「う、うん」
「良かったぁ」
良かったのはこっちのセリフだ。まさか、ほんとにデートだなんて。しかも誘いはキミの方から。僕が仄かに想いを寄せていた同じクラスの小鳥遊さん。明るくてサバサバしていて、誰にでも隔てなく接する人。憧れるようになってから半年ほどがすぎたけど、大して会話したこともないのにいきなりデートの誘いが来るとは。ありがとう神様。もうこれで僕は一生分の運を使い果たしただろう。それくらいに奇跡だ。
「だってさメイちゃん。鳴海くん放課後良いってさー」
「……え?」
彼女が声を張って呼んだ人物が扉のそばに立っていてこっちをちらちら見ていた。僕と目が合うと急にソワソワしだした。確か、隣のクラスの子。面識が無いからフルネームを知らない。
「もっと喜びなさいよこの幸せ者め。あんたを指名してくれる子なんて、この先現れないんだからしっかりやんなさいよ。これ逃したら、あんた一生ネクラ男よ」
最後にもう一発毒舌の銃弾を僕に撃ち込んで“メイちゃん”と彼女は教室から出ていった。え、何、やっぱり嘘ってこと?いや嘘じゃ……ない。事実なのは事実だ。あれ、僕何言ってんだろこれ。日本語おかしいな。
僕がテンパってる間に2人は行ってしまった。どうなってんだよ、これ。僕のデート相手はキミじゃないのか?メイちゃんなんて知らんぞ。どしたらいいんだよ放課後。いや、ちゃんと待つけどさ。
「こんな、ことって…………えぇ〜」
僕の気持ちは届いてないってことじゃないか。がっくり項垂れてしまった。でもメイちゃん、良い子そうだったな。デートに誘うってことは、つまり僕のことが好きってことで……いいんだよな?
「そっか、そうなのか」
途端になんかざわざわしてきた。
相手は違うけど、とにかく放課後デートか。そっかそっか。
めっっっっっっっ
ちゃ楽しみじゃんか!
10/13/2023, 9:13:03 AM