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132.『街へ』『I love…』『あなたに届けたい』



 今年もバレンタインがやってくる。

 近年ではあまり特別視されない一日だけど、私のなかでは依然として勝負の日。
 恥ずかしがり屋の私にとって、愛を言葉にするのは至難の業。
 だからこそ『チョコを渡す=愛してる』の図式が成り立つこの日は、非常にありがたい。
 気持ちを伝えられない私が、『彼』に愛を届けるために、毎年チョコを渡している。

 けれど、上手くいっているとは言い難い。
 これだけチョコを渡しているのに、気持ちが伝わっている実感がない。
 『三分の一も伝わらない』という歌詞があるけれど、それすらも怪しい。

 例えば一年前のバレンタイン。
 奮発して海外ブランドの超高級チョコを用意してみたものの、結果は惨憺たるもの。
 いつもと全く変わらない反応をされた時は、正直殺意を覚えた。

 だから、今年はお安く済ませることにした。
 街へ出て、手ごろな有名ブランドのチョコをいくつか買った。
 今年のコンセプトは『質より量』である。

 だが適当な物を出して手抜きと思われたくない。
 渡すチョコと一緒にメッセージカードを付けることにした。

 とはいえ大したことを書くつもりはない。
 こういうのはシンプルにいくべき。
 バレンタインでは、定番の『I love you』。
 あの朴念仁も、さすがに私の気持ちに気づくだろう。
 そう思い立ち、さっそくペンを取った。

「I love……」
 と、途中まで書いたところで手が止まる。
 急に顔が熱くなり、呼吸も激しくなってきた。
 ああ、なんなんてことだ。
 今更とんでもない事に気づいてしまった。

「これ、めちゃくちゃ恥ずかしくない?」
 そう言えば私、恥ずかしがり屋だった。

 直接愛を伝えるのが無理だからチョコに頼ったのに、メッセージカードで愛を伝えるのは本末転倒。
 私はいったい何を考えていたのか。
 さっき食べたウイスキーボンボンのせいだと思いたい。

 違うメッセージにする?
 『この愛を、あなたに届けたい』。
 うん、無理。
 さっきよりも恥ずかしい。

「これどうしよう……」
 こうして三日間、悶々と悩み抜いた末、結局メッセージは付けないことにした。
 『どうせ、付けても付けなくても同じ反応をするだろう』という結論にたどり着いたからである。
 言い訳ではない、決して。

 ともかく、書かないと決めて気持ちが楽になったのは事実。
 あとは、さり気なく渡せば任務完了だ。
 

 そしてバレンタイン当日。
 私は『彼』の元に近寄り、チョコの入った袋を差し出す。

「ん」 
 素っ気なく差し出される紙袋に、『彼』は一瞬呆気に取られていた。
 しかし袋の中に何があるかが分かると、すぐに顔を綻ばせた。

「やった!
 娘からのチョコだ」
 まるで宝くじでもあたったかのように喜ぶ父。
 毎年のことだが、よくまあ、あんなにも喜べるものである。
 それにしても……

「明治の板チョコ(200円)であんなに喜ぶなんて……
 来年からはあれにするか」

 私の愛も、最近ではめっきりコスパ重視だ。

2/5/2026, 11:16:28 AM