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“蝶よ花よ”


 呼び鈴を押す、指が震える。数日前から約束を取り付け、車を停めるためについ数分前に電話までして、今更何を、というところだが、やはり理由が理由なだけに緊張してしまう。やっとの思いでなんとか指を押し込むと、待っていましたとばかりにチャイムが鳴り終わる前に重そうな扉がゆっくりと開いた。

 「いらっしゃい、待ってたわ」
 「ご無沙汰、してます」

 にっこりと少女の様に微笑む女性の奥には、緊張気味にソワソワとしている、女性と瓜二つの顔を持つ彼女が立っている。本当によく似た母娘(おやこ)だなあと場違いなことを考えていると、笑っている方のつまりは母親の方にどうぞ、と促され慌てて靴を脱いだ。
 不仲な実家より踏み入れた回数が多いかもしれないというほどに何度も訪れた場所だというのに、まるで初めて来た迷路みたいな気分で前を歩く母娘の後ろをついていく。
 リビングにたどり着くまで、俺は何度も何度も心の中でこの日のための一言を復唱していた。何度も何度も恋人として会っているし、冗談の延長で結婚はいつにするの?なんて聞かれ続けていたので断られるとは正直思ってはいないけれど。蝶よ花よと育てられた大事な大事なたった一人の愛娘をいただくのだから、やっぱり格好は大事だ。噛まない様に、とちらないように。ダイニングテーブルの下で、前に座る彼女の母親には見えないように、ぎゅっと拳を握った。その拳にそっと彼女が手を添えた。彼女だって断られるとは思っていないのだろう。その手に後押しされる様に、俺は顔を上げた。
 
 「娘さんを、僕にください」

 彼女の母親は待ちくたびれちゃったわ、とだけ明るく言って彼女によく似た顔をほころばせた。


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気づいたら1週間以上サボってました
結婚エアプです:))

8/8/2024, 2:28:10 PM