『手を繋いで』
手をつなぐよりも、口づけをねだるほうが、抵抗なくできるのは何故なのか。
そんなことを考えながら唇をあわせた。
彼の唇は、ほんの少し温かく、遠い国のスパイスのような香りがした。
彼がわたしの名を呼んだ。
わたしは目を瞑る。
唇が一瞬深くわたしの口に押しつけられて、そして彼の手がわたしの手をとった。
何故、このひとはわたしができないでいることを、簡単にクリアしていくのか。わたしが口にも出さずにいる願いを、こんなにも簡単に叶えてくるのか。
(ずるい)
目をひらけば、彼はわたしの目を覗く。
どう考えてもずるい。
彼が狡いのでなければ、わたしの恋が本気になってしまう。だから、狡い。
3/20/2025, 10:50:26 AM