囚人

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花の香りは、苦手だ。友達の葬式で、嫌という程に感じた香りだった。花は、私にとっては最低の香りだった。
親友は、交通事故で亡くなった。それも、私のすぐ目の前で死んだのだ。その光景は、忘れたくても忘れられず、ずっと脳裏にこびり付いて離れない。私はその時、彼女が手にしていた花を覚えている。いや、正確には、その花の香りを覚えている。普通、人は匂いを忘れるものだ。しかし、私は匂いと光景、どちらも鮮明に覚えていた。もう、いい加減に、忘れたい。せめて、花の香りだけでも忘れてしまいたい。しかし、香りを忘れたら、彼女を忘れてしまうような気がして、忘れることが出来ない。
私は、ずっと、花の香りを避け続けているくせに、彼女からは避けようともしない。彼女は私の、大切な友達だ。だからこそ、彼女が大切にしていた花さえも忘れられない。

3/16/2025, 10:49:39 AM