夜景
仕事帰り、真っ直ぐ帰りたくなかった私は、少し遠回りをしようとハンドルをきった。
街の外れに行くにつれて、少し高くなっていく道路を軽快に進んでゆく。
頂上付近にはパーキングエリアがある。
道行くドライバーたちの休憩所なのはもちろん、ここから見れる景色が良いため、ちょっとしたスポットになっていた。
車を停めて外へ出ると、涼しい風が吹く。
風に踊る髪を押さえながら、私は近くの柵に手をついた。
『きれい…』
夜の街。真っ暗な空間にビルや住宅の明かりがキラキラ輝いていた。光の場所だけが、人間の存在を証明している気がして胸が苦しくなる。
昼とはまた違った表情の街。
ここからぼんやり眺めている時間が好き。
少し離れたところにいると、普段、私が見ている景色がどんなに狭いことか。
私の根源にある『普通』から外れた私を、自分なんかと責めてしまう気持ち。目の前の考えだけに囚われて、息苦しくもがいているのが、スッーっと軽くなっていくように感じる。
だって、私はこの街しか知らない。
視線を上げると、遠くにまた違う街が見えた。
ここが全てではない。あの街にも、また違う顔があって、そのさらに向こうにも。
私の知らない世界は、まだまだたくさんある。
でも。
私は夜から抜け出す勇気がない。
軽くなった気分のまま、またいつもの生活に戻っていき、ここで吐き出すのを、もう何度も何度も繰り返していた。
美しい夜の明かりたちは、私の元までは届かない。
柵を上に立って空を見上げる。
今日までよくがんばった。
私はゆっくりと宙に身体を預けた。
9/18/2022, 11:39:58 AM