もんぷ

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どこ?

 いまどこ?なんていう端的なLINE。本当は返すのを遅くして焦らすなんていうテクニックを使いたいところだが、私が返すのが遅いと彼はきっと"次の子"に送ってしまうから。仕方なく画面を開いて"家"とこちらも端的な返事を送る。"きて"の2文字の通知を見てからベッドから体を起こして、私には大きすぎる彼のスウェットと穿いているのが見えないぐらいのショートパンツに着替えて、適当なキャップを被ってサンダルに足を通す。秋に入ってからますます夜は寒いがそんなことはどうでもいい。どうせ明日の朝には気温も上がっているから、今だけ我慢すれば良い話。かわいく見える最低限のメイクのチェックを終えてから携帯財布鍵Suicaだけ持って家を飛び出す。

「おそい。もっとはやく来てよー。」
連絡が来てから30分以内に家を出たのを褒めてほしいのに、目の前の男は不満げだ。
「もっとはやく来なきゃ次の子に連絡するんでしょ。」
「…なにそれ?信用ないね、おれ。」
ちくりと刺すような言葉を言ったのに彼はへらへらと笑いながら私の首に手を回す。笑ってとぼけるくせに否定はしないことに心底腹が立つ。こんだけ急いできてやったのに、きっと私は彼の一番ではない。前から何番目かの一人で、おそらく、後ろにもまだ何人も続く。その意識が頭をチラついてめまいがしそうだ。
「…この前他の子といたでしょ?駅の近くで見たんだけど。」
「んー?見間違いじゃね?大丈夫だって。信じてよ。」
私がおまえを見間違える訳が無いだろ。私があげた限定のスニーカー履いてどこのホテル消えてったんだよ。嘘つき嘘つき嘘つき。てかあんな化粧濃い奴に私負けたの?ありえないんだけど。吐きそう。気分悪い。言いたいことも、感情も、涙も、溢れて止まらないのに、それらを全て責め立てる前に彼は私を宥めるように頭を撫でながら口を閉じさせる。いつもこうだ。口を奪い、思考を奪い、心を奪う。全て返してくれる気も、帰してくれる気もさらさらない。疲れて大人しくなった私を見て満足げに笑う彼は本当に悪い顔をしている。ああ、早く夜が明けますようにと願って目を閉じた。

3/19/2025, 2:14:16 PM