初音くろ

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今日のテーマ
《七夕》




「じゃーん! 今日は七夕メニューだよ!」
「うわあ! すごい!」
「かわいい! お星さまだ!!」

妻の自信満々の声に、子供達が歓声を上げる。
今日の夕飯は七夕メニューと言うだけあって、随所にそれらしさが散りばめられている。

ちらし寿司の上には星形にくり抜かれた薄焼き卵や海苔が散らされ、ウズラの卵を顔に見立てた織姫と彦星が鎮座している。
吸い物には星形のおくらと手鞠麩と結びかまぼこ。
主菜のミートローフも星形にくり抜かれた人参が使われているし、トマトを器にしたポテトサラダにも星形の赤や黄色のパプリカとハムが飾られている。
デザートには天の川をイメージしたサイダーのゼリーが用意されているらしい。

子供達は目を輝かせ、食べるのがもったいないねと言いながらそれらを平らげていく。
その様子は微笑ましく、夫婦揃って相好を崩して眺めたのだった。


もともとこうしたイベントでは張り切って凝ったものを作るのが好きな妻だが、実は今日について言えば七夕だからというだけではない。
子供達が寝た後、ここからが僕達夫婦にとっては本番だ。

冷蔵庫の奥、子供達に見つからないよう隠しておいた洋酒たっぷりのケーキを前に、爽やかなレモンサワーで乾杯する。
今年は七夕が週末にあたったこともあり、普段の年よりもゆっくり楽しめそうだ。

「今年で結婚して10年か。長かった気もするし、あっという間だった気もするな」
「子供ができてからは特に時間が過ぎるの早いよね」
「これからもよろしくな」
「こちらこそ」

そう言い合って、もう一度グラスを合わせた。
まだ大して飲んでないのに、妻の頬はほんのり色づいている。
僕の頬も僅かに熱を持っているが、アルコールのせいばかりではない。

七夕というイベントにかこつけてプロポーズしたのが11年前の今日。
仕事の都合などもあって、1年の婚約期間を経て結婚したのが10年前の今日。
七夕という日は、僕ら夫婦にとっては特別な日なのだ。
織姫と彦星のように、恋にかまけてやるべきことを疎かにするようなことがないようにしようねとお互いに笑い合う。
今年の七夕もつつがなく過ごせたことに感謝しながら、この先も家族みんなが健やかに幸せに過ごせますようにと願うばかりだ。
七夕飾りの短冊にしたためた思いを噛み締めて、特別な記念日の夜を愛する妻と存分に楽しむ僕なのだった。





7/7/2023, 3:54:10 PM