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『さらさら』

誰が私を推薦したのか知らないが、実に都合の悪いタイミングで電話がかかってきた。

部屋の壁紙を修復、あるいは張り替えてほしいと。

なぜ私がそんなことを、と思わないでもないが、きっと私を推薦した誰かは何か思うところがあったのだろう。
話を聞くだけ聞いて、その誰かを後でとっちめてやろうと出かけることにした。

電話の主の家に着き、部屋に通されて納得する。
なるほど、これは私を呼ぶしかなかったであろう。

部屋全体に染みついた血の匂いと、暗く淀んだ陰鬱な気配。

壁のシミを指差して、家主が言う。
「これなの、落ちなくて。このさらさらした手触りが気に入っていたから、部分的に何かで隠そうかとも思ったのだけれど、いっそのこと張り替えちゃったほうがいいかと思うの」

家主は、私をリフォーム業者かなにかと勘違いしているようだ。
私の名を教えた推薦者の名前を聞き出した後、少しやることがあるからとひとりになった。

有名なポオの作品のように壁の中から出てくるか、それとも床下か。
家主の女性は平気で私を招き入れたので、おそらく何も知らないのだろう。
多分、その配偶者の仕業。

さて、どういう手筈で暴露しようか。
こうして呼ばれてしまった以上、この家の住人がどんな罪に問われようと、看過する気はさらさらない。

5/29/2025, 5:25:45 AM