友よ。
しんと静まった寝室で、伏せていた頭を上げる。
重たい脳みそが愚鈍に回り始めて、刻々と、音を鳴らしながら進む時計の秒針の旋律を耳が粟立ちながら拾い上げている。
そろそろ行かねばならない時間だ。分かっている。
私の友は随分と神経質だが、自由で優しい。遅刻したって許してくれるだろう。
まぁ、それ故に損をすることが多い。そんな姿を眺めては、どうして楽な道に進まないのか、と心の中で呟くのだ。
何度それを呟いただろう。何度幸せを願っただろう。けれども人に雑に扱われる彼女を、どうして私は救えない?
友が傷つき、苦しむのは何回目だろうか。友人、恋人、家族、他人までもが彼女に不義理と嘲りを残して去ってゆく。
友よ。それならば、
口にも頭にも心にも出してはならない言葉はどうやって捨てよう。私に預けられた信頼を崩すことなどあってはならないのだから上手に捨てようと、ずっと前から決めていた。
彼女が立つそのグラグラした足場を支えている自負がある。しかし、支えるだけでは宙ぶらりんで苦しいままだ。
私が与えられるのは味方であるという支えのみなのだから、彼女が望む温度感で、距離で、言葉で、傍にいようと。
友よ、友はなぜ私の友達なのでしょう。
私では足りなかったのだ。
暖かな季節、柔らかな淡紅白色に降られている。
友らしい季節のチョイスだ。清々しい気持ちで外に出たくなるような、決して黒一色で出歩くには相応しくない優しい日光が何かを祝福するように降り注いでいる。
彼女が好きだと言った花を手向け、手を合わせる。私がヒールが嫌いだと知っていたはずだけど、いやはや。
こんな機会を頂くとは、目が痛くって仕方がない。
友は私を裏切った。
私の、春と想いを永遠に重くて叶わないものにした。
10/26/2023, 4:30:20 AM