オーバードーズをして意識が飛んでどこかに運ばれた。
目を覚ましたときには、薄いピンクの壁紙と白い天井に囲まれた、
落ち着いた色合いの部屋のベッドの上に寝かされていた。
ふと見ると、腕に点滴をしている。
ここは病室なのだろうか?
ぼやけて見える窓の向こう側は、
新鮮な雲ひとつない青空とお花畑が広がっている。
この景色を見て私は病院ではなく
どこかの別荘に連れて来られたのかと疑った。
でも、ずっとここにいてもいいと思っている。
居場所のないあの街にいて
自殺のつもりでオーバードーズを繰り返しても死ねないのなら
ここでこの穏やかな景色を見ながら何も悩まずに生きたいと。
そんなことを考えていると白衣を着た若い男性が顔を出した。
「お体の方はいかがですか?」
「だ、大丈夫です」
「よかった。君は薬の過剰摂取で、かなり心を病んでいたようです」
「わかっています。それよりここはどこですか?」
「ここは居場所のない子供からご年配の方々のための心の療養の病院です」
「どうして居場所がないとわかったんですか?」
「それは、君の眼を見ればわかります」
「眼?」
「はい。涙を枯らすほど泣きはらし、何かに怯えるその眼を見れば」
「私が怯えているのは…!」
「わかっています。ここが病院だと信じられませんよね」
「はい…」
「でも、大丈夫。この病院でリハビリをして退院した方は沢山居ます」
「そうなんですか?」
「はい。同じような悩みを持った彼らと話し打ち解け、
心の拠り所となる好きなものを見つけられれば退院できます」
その男性の、その医者の読み通り私はその病院でたくさんの仲間を持った。
そして、その仲間のご老人から高価なフィルムカメラを頂いた。
私はそのカメラで思い出のあの病室に救ってくれた医者と
数名の看護師、仲間を集めて集合写真を撮った。
退院後、私はオーバードーズから抜け出し
写真家の世界へと足を踏み入れた。
私は今、居場所のなかったあの街で自分しか撮れないものを探している。
8/3/2024, 4:43:03 AM