「さぁ、」
と、差し出された手を握ったことは覚えている。
夕焼けがきれいな丘だった。思い返してみれば、曇り空の記憶がない。休みの日にそこを訪れた記憶もない。
学校が終わって、でも家には帰りたくなくて、チャイムが鳴るまでのほんの少しだけの時間を過ごす、秘密基地じみた夕焼けの丘。
最初は俺一人で、ただただぼんやりと夕焼け空を見上げていたけれど、いつしかそこに、知らない顔を見るようになった。
最初は遠巻きにしていた。気づかれたくないと思った。俺だけの場所に、邪魔者が現れたのだと思った。だけど、そいつが、手を差し伸べてきたのだ。
――一緒に遊ぼう、と。
多分、本当は、そう言ってもらいたかったのだと思う。俺がその言葉を想像もできなかっただけで。
そうして、一人が二人になって、それでもいつかは必ず帰らなければいけなくて。
いつか、どうしても帰りたくない日、そいつはもう一度、俺に手を差し伸べた。
「冒険に出かけない? どこか、もっと遠い場所に」
まあ、手を取ったところで、結局は子供二人の逃避行だ。別に遠い場所にも行けないまま、夜の帳が降りる頃には家に帰らされて。
……けれど、その小さな「冒険」が俺の命運を分けたのだと知るのは、それからずっと先のこと。
あの日から三十年を過ごした俺が、今になって「子供の俺の死体」を見せられてからの話になる。
20250225 「さぁ冒険だ」
2/25/2025, 11:15:04 AM