雪だるま

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「日常ってさぁ、小説の題材になり得ないと思うんだよね」
「…いきなりなによ」
「そもそも何で本を読むかってさ、一瞬でも日常を忘れるためだろ?日常から逃げるための手段であるべき小説が、逆に日常を突きつけてくるなんておかしいと思うんだよ」
「ま、たしかにそういう考え方もあるかもね」
「だろ?大体、そんなに日常が好きなら、小説じゃなくてエッセーとかを読めば良い。息苦しい日常から逃れるための小説に日常を書き入れるなんて、そんな悪辣な趣味俺には理解できないね」
「だからあんた、平凡な日常が描かれるだけのハートフルなホームドラマとか嫌いなのね」
「いや、それはまた違う。ああいうのは単純に、『幸せの正解』を押し付けてくるから嫌いなんだ」
「…なるほどね。でもあんた、日常の要素なんて全くない、SFやらファンタジーやらも嫌いじゃない」
「ああ、あれは非科学的だからな」
「…ややこしい人!」

 小説家崩れの彼と私の同棲中。
 私が一番幸せだった頃の日常。

(日常)

6/23/2023, 3:09:16 AM