わをん

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『自転車に乗って』

近所のコンビニのアイスケースにはシャーベットもありカップアイスもありコーンアイスもある。眺めているとどれもこれもがいつもの何倍にも魅力的に映るけれど、帰り道を思うとやや憂鬱になる。
コンビニを出ると雲一つ無い青空にジリジリと容赦なく照りつける太陽が輝いており、激しい気温差に冷凍室育ちのアイスたちが悲鳴を上げるのが聞こえる気がしてくる。今助けてやるからな、と心で呼びかけて意気揚々とサドルに跨ったそのとき、炎天下に晒されていた愛車が牙を剥いた。ハーフパンツからはみ出た素肌がアツアツのサドルに噛みつかれてリアルに悲鳴が出そうになり、あやうく立ちゴケまでしそうになる。ここで倒れるわけにはいかない。アイスのために。小学生のとき以来の立ち漕ぎを駆使して難局を乗り切った俺は、そのままの勢いで行くときよりも早く家へと一心にペダルを漕ぎはじめた。コンビニ内の冷房で一旦は引いた汗が溢れんばかりに噴き出してくる。普段使わない筋肉が突然酷使されて攣りはじめてくる。過酷な旅路は今始まったばかりだった。

8/15/2024, 3:55:02 AM