私は今、学校の廊下で展示されている、
(おそらく美術部の人達が展示したであろう絵)
一つの絵の前で突っ立っていた。
動けずにいた。
その絵は、随分とシンプルな絵で、
画用紙の真ん中に、様々な花が描かれていた。
鮮やかな色が使われておらず、全てが白黒だった。
周りの絵は鮮やかに彩られているのに対し、
この絵は、いわゆる「地味」な類に入るのだろう。
そんな絵だった。
でも、何故だろう?
身体も、目も、心も、
そこから動こうとしない。
動こうとも思わない。
やけに胸が高鳴る。
…物凄く、感動している。
なんだろう?
何がそんなに私に感動を与えるのだろう?
みて、考えて、みて、考えて…
全く分からない。
わかるのは、
私はこの絵に心から感動している、ということだけだった。
「夏樹(なつき)ちゃん、何みてるの?」
突然声をかけられてびっくりしながら振り向くと、
そこには、高橋美雪(たかはしみゆき)先輩がいた。
『美雪先輩⁈』
「わ、ごめんごめん。
驚かせちゃった?」
『いえ…大丈夫ですが…』
「…って、これ…」
そう言いながら美雪先輩が指差したのは、私がずっと眺めてた、感動する絵だった。
「これ、亜希(あき)が描いた絵じゃん⁈」
『あき?』
「西濱(にしはま)亜希。あそこにいる眼鏡かけてる男の人!
…やけに真剣に描いてるなと思ってたけど…」
この絵の作者が近くにいるっていうのにも驚いたけど…
「結構、地味な絵描いてたんだね」
"もっといろんな色使えばいいのに。”
私はこの言葉に一番驚いた。
白黒だからこそ、いろんなことが感じられるんだと思っていたから。
「まぁいいか、
もうすぐでチャイムなっちゃうから、夏樹ちゃんもこんな絵みてないで教室戻った方がいいよ〜」
ばいばいと言いながら教室へ向かう美雪先輩の背中を、茫然としながら眺めていた。
…どうやら、この絵をみて胸が高鳴るほど感動しているのは私だけらしい。
なんでだろ、と思いまた絵を眺めた。
…何も変わらず、胸が高鳴るほど感動している自分がいた。
なぜ…?
(胸が高鳴るほど感動するって、なかなかないことだけれど…
「感動」するものとかって、人によって違うのかな)
私は教室へと急いだ。
3/19/2023, 10:46:08 AM