機嫌の良い時、まんざらでもない時、君は二回髪をかきあげる。犬の尻尾みたいだなあと毛先を眺めて私は思う。
遅刻するよと眠そうに呟く頬を撫でて、実は今日休み取れたと伝えたら、ギッと音がしそうなほど瞳が見開かれた。
「マジで!?」
「マジで」
「無理してない?」
「……してない」
「ほんと?」
下から覗き込まれ、返事が遅れる。嫌味をよこした部長のあばた面がよぎる。
「こういうのは、無理って言わないもん」
嬉しくないの? と目を見て訊いたら、
「さあ、どうかな〜」
面倒くさそうに目を逸らして、指先が二回、右の髪をかきあげた。
大事なものは何なのか、知らせる鍵を君はすぐ隠すけど。不意に開けてくれるのもまた、君だけなんだ。
『君が隠した鍵』
11/25/2025, 9:41:22 AM