あの頃は僕も莫迦だった。「ねぇ、僕のどこが好き?」なんて期待して聞いてしまったりして。恥知らずにデートに誘って、その度に君を冷めさせて、萎えさせて。君は一度も僕に好きだと言ってくれなかったのにね。どうして両想いだなんて思ったんだろう。
「んー、顔」
「そ、それ以外で」「じゃあ無い」
きっと夢見がちな奴だと思われた。元から少女趣味だった僕は、お姫様扱いしてくれそうな男の人が好きだった。君なら、僕の望む恋人になってくれるって本気で思ってた。
僕の取り柄が顔だけなのは分かってた。美人な自覚はあったし、おどおどしていて暗い僕なんかを、君が好きになるなんてあり得ない。
でも、やっぱり、今でも忘れられないんだ。
「綺麗だな」
「うん…夜景とか月とか、僕も好き」
「ばか、お前のことだっての」
そうやって、頬を撫でられて、そっと唇を重ね合わせた。ギラついたピンクの記憶が、今でも海馬に焼き付いている。僕を今でもドキドキさせる。もう一度あんな夜を、過ごしてみたいとも思う。
僕は、君に恋をするのをやめた。空恋。からこい。空っぽの恋。何度噛んでも味がしなかった恋。それでも甘い香りを漂わせていた恋。
ねえ。本当に、最低な奴だったな。僕も君も。
五作目「空恋」
7/6/2025, 1:06:13 PM