灰と雪

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明日世界が終わるなら


 いつ死んでもいいって思っていたの。みんな、私のことを、「きれい」だとか、「好き」だとか、勝手に言ってくれるけど、うわべだけ見て、その時だけ利用されるなんてうんざりだったから。
 私の価値って、花の咲くあの一瞬だけ?春が過ぎて葉を青々とつけるあの時も、葉の色が赤く変わっていくあの時も、葉がだんだんと落ちて幹だけで佇むあの時も、全部全部全部含めて私なのに。
 本当は、丸ごと全ての私を好きって言ってもらいたかったけど、それでも、愛されたいから、必要とされたいから、だんだん水も土も汚れてくる中、あなたたちに「好き」って言ってもらえるように、60年も花を咲かせてきたこと、少しくらい褒めてくれたなら「生きててよかった」って思えたのかな。

 いざ、もうダメだって、自分でもわかってくると、花が散るだけじゃない、本当の終わりを看取ってもらいたいと思ってしまうの。迷惑かけちゃうのは分かっているけど、このまま死んでしまって、「ただ木が折れた」だけで終わってしまうと思うと、何のために生きてきたのか本当にわからなくって…。別に一緒に死んでなんて言ってないよ。ただ、遠くからでもいいから、終わりに寄り添って欲しいの。「お疲れ様、最後まで大好きだよ」って言われて、満足して終わりにしたいの。誰か、誰か、側にいてよ。


 
 通勤途中にあるソメイヨシノの木が今年も1本折れていた。倒木に巻き込まれた人がいなかったみたいでよかった。ここ2、3年、この辺の木全体的に花のつき方が良くないから、5年もしたら全滅するかもしれないな。
「今日のテスト、普通に死んだわ。最悪。まじ世界滅亡しないかな」「それな」「俺今日より明日の方がやばいから、滅亡するなら明日にして欲しいわ」
とか、すれ違った高校生が、高校生らしく、自己中心的でかわいげのある会話をしていた。

5/6/2026, 1:05:13 PM