そらまめ

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「突然の君の訪問。」


「いってきまーす!」

元気よく母親に挨拶して、私はバイトに行こうと玄関の扉を開いた。そして次の瞬間、私はご近所中に響き渡るような悲鳴をあげる。

「ゆ、雪子、どうしたの!変質者でも出たの!?」

尋常じゃない金切り声に、母親がおたまを持って走り寄ってきた。

「お母さんやばいやついるっ!めっちゃやばい!どうしようやばい!」

あまりの焦りに語彙力がギャルみたいになってしまった。しかしやばいしか言えなくなるのもしょうがなかった。だって、扉と床の隙間の今にも家の中に入りそうなところに、おそらく日本の全家庭で出禁になっている、黒光りした’’ヤツ’’が挟まっていたからだ。
遅れてやってきた母もかわいらしい悲鳴を上げた。

「きゃあっ、こんなところに’’ヤツ’’が!待ってなさいすぐやっつけるからね」

母は驚くほど俊敏に殺虫剤を持ってきて’’ヤツ’’が完全に動きを止めるまで噴射し続けた。ちょっとやりすぎな気もするが、’’ヤツ’’は招かれていない人の家に突然押し入ろうとしてきたのだ。これくらいの報いは受けて当然だろう。
母はさっさと’’ヤツ’’を処理し、やだわぁ怖かったわねぇ、と吐息を漏らした。その見事な手つきに私は感心する。私は突然の’’ヤツ’’の訪問に震える事しかできなかったのに、母は強い。私は改めて母に深い感謝の気持ちを抱いた。それと同時に、最近面倒で片づけていなかった自分の部屋の存在を思い出す。今回’’ヤツ’’は玄関で発見されたが、もし私の部屋にもやってきたら、と考えて血の気が引いた。母が部屋を片付けなさいというのをうるさいなあ、と無視していた私を殴りたい。そして母、ありがとう。

私はバイトが終わったらすぐに部屋を片付けようと決心した。

8/28/2023, 12:53:20 PM