安達 リョウ

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子供の頃は(あの頃のままで)


「片付け終わったー?」

―――まだ肌寒い春には少し遠いその日、僕はあらかた自分の部屋の整理を終えていた。
いる物いらない物を分け、段ボールに詰めて階下に運べるよう廊下に積み上げる。
「もう少しかな、後ちょっと」
部屋を見渡し、なかなかに綺麗になったと満足する。
引っ越しの準備というのは意外に重労働だと腰に手を当てて一人息をついた。

ふと残っている荷物の中に一冊の古いアルバムが目に留まり、手に取ってみる。
「へー、懐かし」
赤ん坊から徐々に成長していく過程がつぶさに記録されていて、母の几帳面さが覗える。
そうだった、こうだったとペラペラ捲っていくと一枚の写真が裏側向きで挟んであった。どこか古そうだ。

何気なく表にする。

「あれ、これって」
見覚えがある。確か、………

「お兄ちゃん、お客さんー!」
「はーい」
一階からの妹の声に顔を上げると、僕はアルバムを置いて早足に下へ降りて行った。
玄関のドアを開ける。

「よっ」
「………何だお前か」
「何だはないだろ、冷てーなあ。こちとらせっかく盛大に見送ってやろうと餞別持って来てんのに」
憮然と差し出された箱に、僕はしかし特に反応もせず受け取る。
「おばさんに有り難く頂きましたと伝えてくれ」
「あ、バレてた?」
「………バレるも何も、お前がそんな律儀な奴だと端から思ってないって。透けて見えてんの、その腹づもりが」
呆れ返る僕に、彼はしらっとつまんねえと呟くのだから全く手に負えない。
少しは名残惜しそうでもあれば可愛げがあるというのに、こいつときたら………。

「いやほら、またどうせ会うって。昭和じゃあるまいし、連絡手段なんていくらでもあるじゃん?」
「連絡取るほど会いたいと思う仲だったらな?」
「………。さすがに酷くない?それ」

―――じゃれ合う程に仲が良い。
そういう関係だった、僕らは。昔から。

「ほら」
「ん?」
幼馴染みが小指を差し出す。

「忘れない約束」

約束………。

『お前絶っっ体忘れるだろ! 信用できねえ、ムリ!』
『そういうお前だって約束守ったことねーじゃん! 自分のこと棚に上げてよく言うな! 信じられねー!』
『まあまあ二人とも。じゃあ忘れないように指切りしよう? あと、おまじないかけておいてあげる』

おまじない?

―――幼い頃の僕と彼の指切り。
それは確かにおまじないとして今も僕の手元に残る。

「何だよ、俺と約束はしたくないって?」
お前そこまで捻くれてた? 俺がこんな健気なの当分拝めないよ?
「………なに有り難みを強要してんの」

僕も彼に小指を差し出す。

―――あの頃のように二人とも純粋に笑えてはいないかもしれないけど。

あの写真は今も僕の中で色褪せずに輝いている。


END.

6/24/2024, 5:06:31 AM