『脳裏』
跡継ぎに選ばれなかった双子の兄は素行の悪さも手伝って家を放逐され、それを逆恨みした兄は悪党どもの頭領となった。領地の悪を成敗するのは領主の勤め。私は兄を殺しにゆかねばならない。
悪党どもの根城に向かう最中に脳裏には幼き頃の思い出ばかりが蘇っていた。仲睦まじかったふたりを何が隔ててしまったのだろうと考えるが答えの出ぬままに辿り着いてしまう。もうあとには戻れない。
多勢に無勢という言葉の当てはまる、戦いとも呼べない駆逐となった。残るは頭領のみ。私は、どんな言葉を掛けられても何も答えず首を捕ろうと思っていた。
「世話をかけたな」
この期に及んで兄の言葉に涙が滲む。脳裏を懐かしい思い出が支配しようとするが、兄の手元に刃の煌めきが見えた。兄の脳裏には私のことなど映ってはいないのだろうと解ってしまった。
刎ね落とした首がこちらを見つめている。記憶の中の面影とほど遠い、恨みつらみの籠もった目を伏せさせた私はしばらくの間立ち上がることが出来なかった。
11/10/2024, 5:37:46 AM