あじゅ

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夏の菫が咲いていた。
炎天下に焼けつく瓦礫の中で、トレニア・サマーウェーブが見頃を迎えている。赤、青、黄色の花弁が崩れた城を彩っている姿は、まるで死者への手向けか、平和の象徴のようだ。彼の消えた世界が、こんなにも美しく輝き続けている。そんな事実に、目の奥がツンとなる。
思えばそれは、どうしようもないほどに運命だったのだろう。出会いから別れまでの全てが、よく出来た物語かのように過ぎていた。きっと何か、ほんの少しでも違ったのなら、出会うことすらなかっただろう。
嗚呼、終ぞ気付く事の出来なかった愛しい人よ。その骸も、収まる棺もないけれど、ただ花の咲くこの場所で、静かに眠っていて欲しい。
太陽のように光り輝く君へ、きっと焦がれる事しか出来ないけれど。君の望んだ未来の先で、私という花は、今日も咲くのだ。

4/8/2025, 9:11:19 AM