あかり

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貴方が死なないように冬はセーターを編んだ。

何気ない趣味のように見えて、実はそんな重さを孕んでいるのだ。手編みのゆるゆるのセーターで、寒さを凌げるわけが無いよなぁと今はひとり笑える。
でも、そのセーターが貴方と人生を共に出来る切符になったわけだから、誇らしくも思える。

もう着なくていいよ、と私が顔を赤らめ、
もったいないじゃん、と彼がかえす。
そんな冬の始まりを実は毎年嬉しく思っていた。

ところがとうしたのだろうか。
今年、我が家はまだ、冬を迎えていない。

ただ寂しいだけなら良かった。
ねえ、今年もあのセーター飾ろう、と誘えば済むのだから。でも違う。なんだか心配なのだ。
結婚してからも貴方の愛を感じない日は無かった。
けれど、転職して、今の会社についた時から、だんだん帰る時間は遅くなり、目の下のクマは大きくなった。
真摯に向き合って話していた食卓で会う回数も減り、
「仕事大変じゃない。大丈夫なの?」
と聞いても大抵は適当な返事しか返ってこなくなった。

ねえ、ほんとに大丈夫なの。
あのセーターが押し入れからついぞ出なかったら、それはもう貴方が今年の冬を乗り越えるつもりが無いってことじゃないよね。

私は大人になってしまった。
だから、今はもう貴方を寒さから守るためにセーターを編もうなんて思わない。
でも、今、私はセーターを編んでいる。

私はまた、貴方が死なないようにセーターを編んでいる。思いとどまって欲しいから。これを着て、寒い夜に2人で星を見る。そんな日が来て欲しいという重量を込めて。

セーター。
それは今や、趣味でも初恋でもなく、愛であった。

11/25/2024, 9:55:40 AM