ありす。

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僕はその日、好きな人の幽霊にあった。


中学生の時によく通っていた通学路を久しぶりに歩いてみた。
高校生になった今は、電車通学もあってかこの坂道を歩いていたなんて考えられない。

坂道を抜ければ公園が見える。
公園に入ってみれば緑色の葉が茶色になり散っていく。
近くのブランコがギィーギィーと軋む音が微かに聞こえた。

「や、山田さん…?」

「えっ…?」

ブランコに乗っている人物に目を向ければ、綺麗な栗色の髪の毛に小柄な体躯。鈴の音のようなか細く優しい声。
僕がずっと好きだった山田さんがそこにいた。

山田さんは俯いていた顔をあげ、僕を見ると光がなかった瞳が輝き出した。

「私の事が…見えるんですか!?」

嬉しそうな声音でブランコから立ち上がる山田さんを見れば…その体は薄く透けている。

「誰も私のこと見えてなくて…声をかけても誰も反応してくれなくて…私寂しかったんです!それに私…何も覚えてなくて。あなたは私を知っているんですよね?私はあなたとどういう関係なんですか?」

僕と山田さんの関係。
中学生の時のクラスメイト。
他人から見ればただのクラスメイトだ。
でも、僕から見れば山田さんは好きな人で…急に終わった恋の…苦い思い出の人。

「ぼ、僕らは…」

あの日々の記憶が蘇ってきた。
貸してくれたノートも笑いかけてくれたことも。
一緒の委員会になって助けれくれたことも。
山田さんにとっては思い出にもないことかもしれない。

「中学生の時に…付き合っていました。僕と山田さんは…」

僕は急に終わったこの恋を…この溢れる気持ちの終わらせ方を僕は知らない。
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山田さん突然学校に来なくなって半年が経った頃。
最初の頃は、心配していクラスメイトだったが半年も経てば山田さんのことを気に止める人はいなくなっていた。

「山田さんの家って夜逃げしたらしいよ。両親の借金で」

「わたしは、妊娠したから学校辞めたって聞いたよ?」

「両親の借金返済のため働いてるんじゃね?」

それどころか根も葉もない他人の噂が独り歩きをしていた。


「私ってどんな中学生時代を送っていたの?放課後とか…デートしてた?」

「で、デデデデート!?あ、うん。してた。していました」

「そっか…楽しかったよね?なんで忘れちゃったんだろ」

寂しそうにする横顔を見て罪悪感が胸を埋めていく。
どうせ、山田さんは幽霊だ。
そんな最低な気持ちでついてしまった嘘。

「ねぇ……なんで…私が死んだか知ってたりする?」

「えっ……」

下を向き静かに震える山田さんに僕は、どんな声をかければいいかわからなくなった。

「やっぱり…知らないよね。変なこと聞いごめんね」

「いや、山田さんは何も悪くないよ」

「ありがとう。私も最後に自分を知ってて見える人に出会えてよかったよ」

「最後…?」

「私はもうすぐ消えて完全にいなくなるんだと思う。またより一層薄くなってきたから…」

手を太陽にかざすと日の光が手のひらを通して山田さんに当たる。

「ねぇ、私とどんなところデートしたの?」

「えっ…本屋とか?」

「真面目だね!他には?」

山田さんは本が好きだった。
他にも甘いものに目がなくて…オシャレも好きでクラスメイトと話していたのを聞いていたし。
猫より犬が好きで…数学より国語が得意で…。

「大丈夫?!な、泣いてるの?」

山田さんは僕の手に自分の手を重ねる。
温もりを感じることも出来なければ、ぴったりと重なることはない。
でも……

「ねぇ、また明日私たち会えるかな?」

「えっ…あぁ…うん。明日会えるよ」

「じゃ、明日あ…」

瞬きする間もなく気付けば隣には誰もいなかった。
何十分。いや、何時間経ったのだろうか。
山田さんの手の優しさを忘れられなかった。

僕は好きな人の幽霊にあった。
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学生時代によく通っていた通学路を久しぶりに歩いてみた。
社会人になった今、電車通勤もあってかこの坂道を歩いていたなんて考えられない。

坂道を抜ければ公園が見えた。
未だに思い出す。

僕はその日、好きな人の幽霊にあったことを。

会ってからずっと公園に行ってみるが、もう会えることはなかった。
多分、自分の脳みそが見せた幻覚だろう。
未練がましい自分に嫌気がさして行くのを辞めた。

「ちょうど…このベンチに座って喋ってたかな」

綺麗な栗色の髪も。
鈴の音のようなか細く優しい声も。
胸をときめかせるあの笑顔も。
山田さんは中学生の頃と何も変わってなかった。
都合のいい幻覚だった。

「また…会えないかな」

「誰に?」

「誰って…山田さん…に?」

「私に会いたかったの?」

言葉が出なかった。
口が空気ばかりを入れていた。
胸が張り裂けるような痛みを感じる。

「会いたかった…し…。ごめんなさい。僕、山田さんに嘘を…」

「言わなくていいよ。今さらあの日のことを…あの一瞬の思い出でも私の楽しかった思い出だよ」

「いや、なんでここにいるの?」

「私…死んでたわけじゃなかったの。気付けば病院のベッドの上で3年間も寝てて…それからリハビリ頑張って学校に行って……でも、ずっと考えていたのあなたのこと」

山田さんの綺麗なほどの笑顔が変わらずにそこにあった。

「ねぇ、私とまた付き合ってほしい。この恋を…この溢れる気持ちの終わらせ方を私は知らないから」


僕はその日、好きな人にあった。
ずっと好きな人に。

2/5/2024, 2:23:56 PM