《誇らしさ》
邪神を倒した時。彼は、胸を張ってはいなかった。
自国の皇帝の暴挙により起こった、他国への侵略行為に対しての今後の処理。
闇の眷属に蹂躙され、荒れてしまった自国の復興。
祝いの席にいてなお、彼は傷付いた他者への配慮とそれに対する責任の重さをただひたすらに噛み締めていた。
それでも自ら荒れた地へ赴き、厭うことなく力仕事も行って、民への信頼を築いていったよう。
民に混ざって額に汗して働いていた彼は、それは明るい笑顔だった。
そして、3年後。
彼はそうして民からの信頼を得たからか、国政に就き帝国をまとめ上げていた。
自分は指導者になる自信はない。
以前そう言ってはいたけれど、野望は持たずひたすら国民に対して真摯な彼は、本当に良き方向に国を導いていたようで。
相棒の中からではなく初めてこの目で直接見た帝国は、まだ復興が進まない箇所もあるけれど、それでも人々の笑顔で溢れていた。
皇帝に支配された結果持ち上げられた者の驕りの笑いではなく、全ての人達の安心から来る幸せの微笑み。
黄金色の街並みから生まれる人の営みが生む煙は呼吸のようで、そこに穏やかな生活がある事を示していた。
それは、彼の導きがたくさんの人の心を救ったという確実な成果で。
気が付いた時、嬉しさで胸が一杯になって泣きたくなった。
ああ、彼は3年もの間、こんなに頑張っていたんだなって。
そして今、私は彼の隣で街を見ている。
夕焼けの光を浴びて輝く、黄金色の街並み。優しい風にそよぐ、営みの炎が生む煙。
切り揃えた髪を風に靡かせながら、彼は背筋を伸ばして街並みを見つめている。
日の光で赤く染まった彼の表情は柔らかく、眼差しは慈愛に溢れている。
その姿は彼自身も気付いていない誇らしさが滲み出ていて、本当に美しくて。
私は燃えるような赤い光とともに、その美しさを瞳に焼き付けた。
8/17/2024, 3:16:20 AM